ペルソナの決め方と調査のあり方

商業プロジェクトの初期段階で、「ペルソナ (想定ユーザ) をどうするか」という話に よくなります。
ペルソナ (想定ユーザ)
アドホックなペルソナ ( 調査やデータなしに「こんな感じじゃね?」と推察した仮のペルソナ ) にすべてを託すことは危険ですし、「だからちゃんと調査してデータに基づいたペルソナを決めるべき」という指南書は数多く見受けられます。
そして、これらの意見に対して、僕自身、異を唱えるつもりは全くありません。

「調査の必要がない」つまり「調査しなくても結果は明かである」というケースであっても、(後述する) 調査の結果見えてくる潜在特性の発見 などの重要性を考えれば、調査に基づいた 本来の意味のペルソナ が重要なことは明白です。

それでも僕は、まず、アドホックなペルソナを無視して始めたプロジェクトは失敗すると断言できます。

最も初期の段階で詳細なアドホックペルソナを設定せよ!

プロジェクトの一番最初に、出来る限り、詳細で厳密な アドホックな (仮の) ペルソナを設定することが肝要なのです。

(「その重要性がわからない」「面倒だ」といったアフォな場合を除けば、) アドホックなペルソナの正当なベネフィットがいくつかあるからに他なりません。

重要なベネフィットは、いったい何でしょう?

決して
「時間的・金銭的に、調査しない方がコストが低い
ということではありません。
それは…「売り手の先入観を利用する」…ということです。

売り手側の先入観を利用せよ!

「仮」のペルソナから始めることの利点

実は、先入観 なしにゼロから調査して、正解に辿り着くのは、効率的ではありません。
そもそも、先入観の無い人は存在しません。
先入観は、あって然るべき…であり、先入観ありきの作戦でいった方が合理的なのです。
問題は、先入観の無い見方をしているかのような勘違い意識にこそあるのです。

先入観は、否定するものではなく、疑うものなのです。
疑うためには、「先入観なしで!」と言っていては疑えません。
「先入観?もちろんあるよ!正しいかどうかは怪しいもんやけど…」
…ってなバランスが一番良いのです。

先入観を利用するには、まず…
先入観を具体的にリスト化することから始めます。
そして、調査によって、実態の検証を行い、先入観と実態との間で、整合を図るのです。

アドホックなペルソナは、あくまで、たたき台であり、都度、「仮」のペルソナです。
「仮」ということは、「正しい点も間違っている点もないまぜになっている状態」なのですから、この状態を整理して、より真正の実態に近づけるためにこそ調査をするわけです。
言い換えるなら、先入観の間違いさがし」という目的で調査を行うのです。

顧客の顕在特性は 間違いさがしで検証せよ!

顧客の特性は、便宜上「顕在特性」と「潜在特性」に大別できます。

前項で、「間違いさがし」と言ったのは、「顕在特性」を検証する ということです。

例を挙げると…大学に通うために新入生がアパートを探しているとします。
この場合、学校との距離や家賃などの条件が、その他の条件(間取/築年など)に比べてより重要であることは、調査の結果明らかになっています。
保護者の金銭的条件と、新入生自身の通学の利便性が、他の条件より優先されるということです。
つまり「多少 古かったり狭かったりしても、学校に近くて、予算の範囲内であることの方が重要」であることがわかります。

顧客の潜在特性を発見せよ!

さて実は、調査の目的は、顕在特性の実態が想定した先入観と合致しているかどうかの検証だけではありません。
調査の結果、「へぇーそーやったんやー!」というような、調査した側もされた側も知らなかったような特性が浮かび上がることがあります。
顧客の特性
これを「顧客自身も意識していない特性」という意味で、ここでは『潜在特性』と呼ぶことにしましょうか。
これは、思いもかけず見つかることもありますが、ある程度、見つけるための工夫を仕掛けることが大切です。

例えば…

  • 書きたくなるような 記述式の設問をひとつふたつ設ける

※ 当然ですが、「なんでもいいからコメントを…」ではなく、ある程度テーマを絞って、回答者にとって書きやすくしておくことも重要になるでしょう

  • プロジェクト内容と一見関わりのないような設問も設ける

という方法は、有効です。

記述式の設問は、書く/書かない だけでなく、回答の文字数や、内容の解析 など後の解析次第で複合的な有益な情報元になりますし、
関係のないような設問は、「箸休め」のような働きをし、回答者を調査に対して協力的にしてくれる効果があるようです。
この場合、気をつけたいことは…メインの設問とは逆の属性の設問にすべきであるという点です。
メインの設問が比較的シンプルで淡泊に回答できるものであれば、これらの設問は、ほんの少しひねったものに、
状況などの客観的なものに対しての設問がメインであれば、個人の嗜好などの主観的なものにすべきでしょう。

調査属性の種別

データは嘘をつく

データは数値という形式になりますから、「データは嘘をつかない」「数値は公正であり、データは真正なモノである」と盲信しがちですから、正しく採られなかったデータは必ずと言っていいほど「誤解」を誘発します。

データとは、調査の結果です。
したがって、調査の方法により、データは変わります。

  • 何を知りたいのか

という基本的なことのためには、アンケートの内容が重要であることは言を俟ちません。

しかし、実際には、(内容だけでなく)

  • 誰にアンケートを採るのか
  • どういう手段でアンケートを採るのか (街頭 / サイト / メール / 商品添付のハガキ など)
  • アンケートの告知にどういう手段が使われるのか (懸賞サイト / メール など)
  • アンケートに応えるインセンティブの有無 (プレゼントなど)

といった アンケート実施方法ごとの小さな差異も大きく影響してきます。

典型的な例として、実際に某サイトで十年近く前に行われた調査の話をしましょう。

あるサイトで、多数の方々に対して

  • インターネットにを使用する頻度と時間
  • インターネットを使用する目的
  • 年齢・性別

などのアンケートが行われました。

なんと「95% 以上の 30代女性は、毎日 1時間以上、3つ以上の目的のために経常的に、インターネットを使っている」という結果が出ました。

しかしもちろん、この結果を真性のデータと受け取ってはいけません。

なぜなら、このアンケート調査が行われたのは、ヤングミセスをターゲットとする あるポータルサイトで行われたものだからです。
(インターネット上で行われているアンケートですから、アンケートに応えるためには当該サイトにアクセスしなければならないことは自明です)
ここまで極端にバイアスの存在を無視したケースは、さほど多くはありませんが、わかりにくいけれど 調査目的と調査手法がずれているケースは、大変に多いです。
そして、そのようなチグハグな調査は、調査費用をドブに捨てたことになるだけでなく、プロジェクト自体を誤った方向に導くことになるのです。

ペルソナは複数設定せよ!

アドホックなペルソナを設定して調査を行った結果、相反する属性が出る場合があります。
「あります」と言いましたが、相反する属性は出るものなのです。
だからと言って、ひとりのペルソナが、(調査の結果顕著であるとわかった) 属性のすべてを持っているわけがありません。
勘違いしないでください。
ペルソナは複数設定する必要があります。

仮に、ある服飾デザインメーカーの調査により、身長162cm 以上の人と、体重 45kg以下の人が、ドット模様のブラウスが好きであるというデータ結果が出たと仮定します。
身長 162cm以上で、体重 45kg以下の、極端にスレンダーな女性が、特に水玉ブラウズを好むのでしょうか?
違うはずです。

ペルソナの属性は尖らせよ!

多くの場合、複数設定したペルソナは、プライオリティをちゃんとつけることで、マーケティングの指針として大いに役立ちますが、集約しすぎた平均データは、何も教えてくれません。
勘違いしないでいただきたいのですが…
『尖らせる』というのは、極端にせよという意味ではありません。

先の例であれば、身長が比較的高い女性に好まれるからといって、170cm以上の女性にしか似合わない水玉ブラウスでは売れないでしょう。

より『具体的に』『明確に』するということです。

上記の例であれば…
水玉のブラウスを「好き」だから買うのか、「無難だから」買うのか
水玉ブラウスは嫌いな人の分布はどうなっているのか
といったあたりも追加調査が必要でしょう。

追加調査の結果、「無難だから」ではなく「好きだから」水玉ブラウスを買うという顕著な結果が出れば、水玉ブラウス嫌いな人の分布調査結果は軽視しても構わないでしょうが、「無難だから」買うのであれば、嫌いな人の分布状態は、大きな指針になるはずです。

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