FileMaker社に不安を感じる

■ FileMaker社 日本法人 新社長 が 戦略を語るインタビュー記事

粟倉社長に聞く、ファイルメーカーの戦略
http://ascii.jp/elem/000/000/425/425694/

彼の主張を意訳すると…

  • 従来の販売形態は、データベースソフトといえども、他のアプリケーションと同様に、店頭でのパッケージ販売が主であった。
  • この状態では、素人にも使いやすい 体感的なデータベースソリューションの作成が可能な アプリケーション から脱却できない。

そこで、戦略に3つの柱を考えた。

  1. ライセンス販売を行う直販部隊を新設
  2. FBA企業に、ライセンスの再販を認めた
  3. 大手インテグレータとパートナーシップ

これらは、一見ふつうの話に聞こえる。

■ FileMaker の黎明期

FileMaker は、最初、Claris社という Apple社の子会社のような立場の会社から、元々 カード型データベースアプリケーションとしてリリースされた。
大きな理由の1つは、素人にも、概念が理解しやすい ということだろう。

Macでのデータベースアプリケーションとして、さしたる競争相手がいなかったこともあり、それこそ “Rest of us” のためのデータベースアプリケーションとして、しばらくは、そこそこ着実にその足跡を刻んできた。

Ver 3 あたりから搭載されたリレーション機能に加え、(僕が以前経営していた会社でも関わっていた) Ver. 4 では、Web Companion という Web Publish の機能を搭載。
平易な置換タグである CDML を書くだけで、作ったデータベースを、Web上でページとして公開できるようになった。

もちろん、その汎用性や、堅牢性・セキュリティ・速度などどれをとっても、当時から存在していた他の Enterprise なデータベースとは、比べる可くもない性能ではあったが…

この Web Companion による Web Publish 機能は、Ver. 6 まで続いた。
僕の理解が正しければ、Ver. 6 までは、ユーザーは、順調に増えていっていたと思う。

■ FileMaker Version 7

Ver. 7 が出た。
従来の 1ファイル = 1テーブル という様式が変わった。
1ファイルに、多くのテーブルを持てるようになり、物理的なファイル容量の制限も、従来の 1ファイル 2GB までというものから、1ファイル 8TB までとなった。
これらの仕様の大きな変更は、データベースアプリケーションとして、当然のメインストリームではあるし、事実、そこそこの規模の企業が、ソリューションを構築するにたる実力を FileMaker に与えた。
しかし、同時に、これらの根本的な仕様変更は、現場のユーザに大きな戸惑いを与え、その戸惑いは今も続いている。

■ 従来のユーザにとっての FileMaker

多くの Ver. 6 までの ユーザ にとって、FileMaker とは、
『データベース設計などという面倒なことを考えずに、素人が場当たり的に成果物を短時間で作れるアプリケーション』
以上でも以下でもなかったのだ。

上述した『素人にも、概念が理解しやすい』というのは、カード型としての概念である。
つまり、それぞれのカードにひとりの人物の住所や電話番号を記載した…そういうカードの束 を扱うという概念である。
カードの束から、手品のように、抽出・ソートができる。
そして、それらの (いわば) マクロの延長でしかない スクリプト は、ボタンやテキストや画像などに貼り付けられる。

(コンピュータ以外の) なんらかのプロフェッショナルにとって、まさに感動であったろうと思う。
バグだらけで、再用性や汎用性が低く、化粧パターンとしてのテーマだけ数を揃えた 今の Bento どころの話ではない。

さて、それでも、FileMaker に陶酔した Ver. 6 までのユーザは、Ver. 7 以降の FileMaker を使い続けた。
しかし、現実に使われるデータベースの殆どは、Ver. 6 あるいは、Ver. 4 で作ったものを Ver. 7 で使えるようにコンバートしただけのものであった。
当然、ファイルは、数十を数え、見通しも悪く、せっかくの Ver. 7 以降の機能は、まるで使われていなかった。

彼等にとって、既に存在しているデータベースを、新たに アップグレードして、スクラッチから作り直すという手間は、
より高機能で、堅牢なものにしていくというモチベーションを維持できるほどには、小さなものではなかったのだ。

だって、それは、当然のことではないか。

彼等の多くは、コンピュータのプロではなかったし、
彼等の仕事のなかで、FileMaker で作ったデータベースは、あくまでツールだった。
大きな Budget と手間とを引き替えに、すでに完成しているデータベースを、わざわざ作り直す必要性などどこにもなかったのだ。

とはいえ、ディスコンになっていく旧バージョンは、そのうち手に入らなくなるのも事実。
今と同じ便利さが、将来に享受できないかもしれないという危機感が、彼等にも、新バージョンへのアップグレードだけは続けさせていた。

逆に見れば、FileMaker社に支払うアップグレード代金が、経済的な限界であるような…そういう普通の人たちに、カード型とはいえ、データベースを使う気にさせた FileMaker の功績は大きいとも言えるだろう。

■ 現行のバージョン

さて、その後、Ver. 8、Ver. 8.5、Ver. 9、Ver. 10 と立て続けに FileMaker は、バージョンアップを続けてきた。
すでに、従来の「速くないし、込み入ったことはできないし、堅牢でもないけど、チャチャっと作れる」という評価は該当しない。
データベースについての 概念の理解は必要だし、そのためには経験を重ねるための時間もかかる。
そのかわり、複雑なソリューションを堅牢に作ることも可能になった
」ということである。

では、現在の FileMaker 10 は、既存の EnterPrise なデータベースソリューションに比べて、遜色ないのだろうか。
残念ながら、否である。
Oracle に代表される EnterPrise なデータベースソリューション とは、確実に一線を画さざるをえない。

しかし、である。

世の会社のどれだけが、「絶対にいつでも正確に迅速に動作せなあかんし、一瞬たりと止まったらあかんねん!」というようなミッションクリティカルなソリューションを必須とするのだろうか?
どれだけのデータベースサーバが、秒間 千単位のコネクションのハンドリングを絶対条件とするのだろうか?

それらの すんばらしいソリューションの多くは、構築に1年以上、イニシャルコストで、数千万かかるものがめずらしくない。
かたや FileMaker はどうだろう?
おおくの場合、構築にかかる時間は、半年以内、イニシャルコストは、数十万円から せいぜい 数百万円である。

成果物としてのソリューションも、銀行など金融系のミッションクリティカルな要件の課されるものでなければ、充分に堅牢なものが作成可能である。

■ FileMaker というコミュニティ

Ver. 7 以降、FileMaker は変化した。これは事実。
それ以前の利点はあるていど犠牲にしてでも、正しい方向へ舵を切ったと僕は思う。

従来のユーザには、その変化に柔軟に対応できるような 総括的なサポートが必要である。
そして、有志によってではあるが、曲がりなりにもそれはなされてきた。

さて、有志とは誰なのか?
もちろん、FileMaker のユーザであることは間違いないが、ありていに言ってしまえば、
FileMaker社とのあいだで、FBA という パートナーシップ契約をしている 開発会社 の人たちによってである。
つまり、FileMaker のプロたちによってである。

日本全国各地において、定期的な レクチャーやワークショップを開催しているのも彼等だし、
各地域毎に散在するユーザグループを牽引しているのも、彼等である。
無償で、かつ手弁当での彼等の尽力の理由のひとつには、もちろん、自分たちの商売上のメリットがあるだろう。
しかし、レクチャーやワークショップの場で、あるいはユーザグループの集まりの場で、彼等が自社の宣伝をしている光景は見たことがない。
彼等の多くは、僕の知人であり、友人であるからで言えるのだが、彼等は、FileMaker が好きなのである。

好きとはなんと甘っちょろい…と眉をしかめるのは、待って頂きたい。

「好き」は、行動のモチベーションの根源である。
また、好き/嫌いは理屈ではないというが、この場合、あきらかな理屈がある。

彼等の殆ど全員は、かつて、ただの FileMaker ユーザであった。
多くの他の開発会社の社員のように、学生時代にコンピュータを基礎から学び…という理系の占める割合がすこぶる低い。

# というと、同じタイプの人間ばかりに聞こえるだろうが、そうではない。
# あえていうなら、キャラクターのかぶる人間は皆無である。

彼等の多くは、黎明期からの FileMaker に触れており、その第一次接近遭遇時に、大きな感動を覚えた。
上述のような FIleMaker の変遷にも能動的に対応し、重ねた経験によって、より深く FileMaker を知っている人たちである。
誰にでも分かる FileMaker の 利点としてよくあげられる 帳票の作りやすさ、開発効率の良さだけに惚れたのではない。
元を正せば彼等もユーザであった。
その彼等が、提供する成果物に対して、毎回 驚き喜ぶ顧客の微笑みがあった。
顧客 ひとりひとりも、FileMaker のユーザだからこその 反応である。

バージョンアップを重ねる毎に、新たな武器や魅力を伴って生まれ変わる FIleMaker の ひとつひとつの武器や魅力の生かし方にもっとも秀でているのも彼等である。
そして、それらは、一般の FileMaker ユーザ にとっても、大いなる興味の湧く分野であったのだ。

こうして、FileMaker のコミュニティが形成されていった。

■ 新社長体制への不安

さて、新社長 粟倉氏 のインタビューである。

主張の根幹である
「FileMaker は、すでに決して小規模でのデータ管理にしか使えないものではないのだ」
「数百人規模の大規模ソリューションにも充分対応している」
ということを知らしめたいという話にはなにも問題はない。

一番目の ライセンス販売の直販部隊を新設 というのも遅すぎた感すらあるものだから、これも問題ない。
二番目の柱 という単元に出てくる『開発中心のパートナーだったFBA』がライセンスを再販できるように…というくだり。
ちょこっとひっかかる。
そしてそのひっかかりは、文末のボールド体で書かれている文章につながる。

文末にボールド体で、

FBA(FileMaker Business Alliance)とは、年額4万9000円でファイルメーカー製品の導入やファイルメーカーを使った開発を代行する、ファイルメーカー㈱とのパートナー契約のこと。優待価格で製品を購入できるほか、マーケティングについてのサポートも受けられる

とある。

僕の認識では、開発会社から見た FBA というパートナーシップ契約の大きなメリットは、
FileMaker 社 のサイトに、地域ごとに検索できる FBA のリストがあり、そこに社名を連ねられることである。
もっと言うなら、FBA 契約をしないかぎり、見ず知らずの会社からの案件はやってこないのが現実である。

FileMaker の導入や開発代行は、免許制なわけではない。
案件があれば、FBA じゃなくっても、スキルさえあれば、誰でもできる。

(もちろん、自社開発用の FIleMaker 製品を割安で購入できるなどのメリットはあるが、それ以上に)
マーケティングについてのサポート というやつが FBA の事実上の目的である。

そして、三番目の柱の単元にはこうある。

3番目の柱として、大手インテグレーターとパートナーシップを結ぶ活動を進めています。これは、数百人レベルで使用する大規模ソリューションをFileMakerで開発するには、やはり開発事業者にも体力が求められる場合が多いからです。

この大手インテグレータなるものが、どこのどなたなのかは知りませんが、
体力が求められても大丈夫な程度に、大きい会社ということなのだろうか?

『大規模ソリューションの開発に関して、大手インテグレータに対して、パートナーシップを結ぶ』

この言葉に、僕は、一抹の不安を覚えざるをえない。

なぜなら、大多数の FBA は、開発要員 数人から20人程度である。
20人規模の FBA が、大手インテグレータに入るとは読み取りにくい。

ならば、↓こんな意味か?

「大きな案件は、FBA 各社では、体力がたりないだろうから、大手インテグレータなる他社にふるよ」
「FBA 各社は、ちまちまと、小さな案件を拾ってなさい」
「ライセンスの再販もできるようになったから、営業してね」

… もしそうだとすると、今までの 彼等の貢献をあまりにないがしろにしすぎではないだろうか?
そう聞こえるのが杞憂であることを祈る。

■ FileMaker Road Show 2009 について

さて、先述のレクチャーやワークショップなるものとは、明らかに趣を異にする。
FileMaker社 主催の大々的なものであるという点がである。

日本全国 5箇所、それぞれに、ソリューションセミナー / スキルアップ・ワークショップ が一コマずつ。
全部で、10コマである。

マーケティング という観点から、FBA各社の立場で考えてみれば、この場で演壇に立てることは、事業上の大きなメリットとなるだろう。
FBA各社に希望を募って、厳正で公平な審査をもって選定すべきであることは言を俟たない。
ところが、この 10コマ つまり、のべ 10社の選定は、そういった段を踏んでいない。

FileMaker 社から直接オファーがあったということである。

もちろん、選ばれた FBA の各社も、大なり小なり、草の根的な活動を続けてきた会社が多い。
しかし、各地域に出かけていって行うイベントであるにも関わらず、地域に根ざした活動を長く続けてきた会社に、声すらかけていないというのは信じられない。

ことその地域では、その会社なしには、FileMaker コミュニティがなりたたなかったかもしれないほどの貢献を続けて来ているのに関わらずだ。

これは、不思議を通り越して、異常とすら見える。

取り違えして頂きたくはない。
「事情の説明くらい事前にあってしかるべきな会社にまったく連絡がない」のは、一社や二社ではないのだ。
全 FBA 60社 の中で、今回のイベントに関わった のべ10社 (つまり重複があるので本当は 数社) 以外の すべての会社には、何の連絡もないとのことである。

# 新社長氏とは、
# 過去にどういう貢献があったかなど完全に無視して、
# 場当たり的にころころと方針を替えられるような…そんな人なのだとしたら…
# 今回、声のかかった FBA 各社も、明日は我が身という結末になりかねない。
# 残念ながら、意中の相手は、FBA のどこかではなく、大手インテグレータなのだから。

どうやら 新社長氏にとって、「地域での草の根的かつ長期的な貢献」というファクターは、明らかに重要要素ではないようだ。

僕自身は、FBA でもなんでもないし、プロジェクトマネージャやコンサルタントとして選定するソリューションフレームワークのうち、FileMaker の占める割合が半数を超えるわけでもない。
だからこそ、第三者として見えている景色は正確だと思う。

さて、「昨日まで支えられてきた先達の尽力や貢献を無視して、場当たり的で、恣意的な方針をとる」という流れが、今後も進むのだろうか?
もしそうなら、裏切り続ける信頼の対価は安くはないだろう。
目先の損得だけで、行動を決めるようなヤツは、人間であろうが、会社であろうが、他者(社)から信頼される道理がない。

ビジネスとはいえ、所詮、動くのは人間。
突き詰めれば結局「けったくそ」で動く生き物だ。

… この疑念の全てが、一切杞憂であることを祈るばかりである …

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